リバティーン

うだうだ迷っていましたが、今日ようやく「リバティーン」を観にいってきた。新宿のタイムズスクウェアである。ジョニー・デップが主演とあってか、館内は女性客が多いような。二つとなりの席は女子高校生だったし(土曜なのに制服を着ていたので分かった)。
で、リバティーンだが、詳しいあらすじは公式HPを読んでください。一言で言うと、「人に迷惑をかけまくった男が放蕩で梅毒に罹り、若くして死ぬのだが、死ぬ直前に回心する」という話だ。身も蓋もないか。なぜそんな説明のしかたをするかというと、話があらすじのようだから。ロチェスター伯爵の、死ぬ5年前以降に焦点を絞って物語を作っているようなのだが、あまりに色々なことが起こり、2時間では語りつくせないほど色々な人が関わってくる人生だったのだ。だから、「あれ?あの死んじゃった美青年は結局どんな関係だったの?」とか、「あの娼婦は連れて行かれてどうなったの?」なんてクエスチョンがいっぱい飛ぶんだなあ。まあ本人がそれだけすごい人生を歩んだということだ。
ええと、映画のつくりはどうだったのかというと、必要以上にリアルだった。というのは、17世紀のロンドンの、ぐちゃぐちゃな状態がよく表現されていたからだ。私としては目で見ることができてとても満足。街はいつも霧が立ち込めていて、道には汚物がまかれてぬかるんでいて、それを食べる豚が放し飼い。劇場は照明はろうそくしかないので暗い。役者は顔を白塗り。伯爵が馬車から降りると、道がぬかるんでいるから脚が埋まってしまう。また、風俗についても興味深い。庶民も貴族も国王まで一緒になって観劇するとか、女優は半分娼婦、とか、ロンドンの公園では男も女も男もヤりまくり、とか。17世紀ロンドンはそんな状態なのか、と。
そんな、粗野で下卑た街と人々を十分に描写する中で、ジョニー・デップはその魅力を、背景にまったく沿うような形で発揮していた。言い換えると、かなりの汚れ役なのに、彼自身の個性がとても生きていたということ。もっと短く言うと、かっこよかったです、という事。
ロチェスター伯爵は後半、アルコールと梅毒に侵される。また、その頃信じられていた梅毒の治療が、水銀の蒸気に当たるというものだったから、神経をやられて、それはもう、ひどい状態になってしまう。歩けないし、失禁するし、病気が進行するにつれ、皮膚が吹き出物ができてかさかさになり、かさぶただらけ。片目が白濁し、鼻の骨が溶けてきてしまうのだ。映画とはいえ、直視し難い。また、かつて知性と教養で傲慢に振舞っていた美しい男が、失禁してしまう・・・一度は泣き崩れるが、妻の前では気丈に振舞ったり。いまさら戻ってきた夫のこれまでの行いに怒りをぶつけ、しかし「生きろ」と責める美しい妻。観ていてどちらの気持ちも入ってきて辛くなってしまったね。
あと、ロチェスター伯爵が執心して指導し、立派な女優に育て上げたエリザベス・バリー役のサマンサ・モートンが、どんどん垢抜けてきれいになるのがすばらしい。そして、伯爵の妻を演じてる人がロザムント・パイクという人なのだけども、この間観にいった「プライドと偏見」に出てきた四姉妹の長女を演じた人ですね。奇遇だなあ。
ロチェスター伯爵は妻も娼婦も映画には出てこなかったけど他の女性もたくさんいたが、どうやら晩年心から愛したのはエリザベスだったようだ。本編でも娼婦のせりふに「男は三回恋をする。初恋の女、妻そして死の床の女(うろ覚え)」とありました。エリザベスの関係が、もうちょっとはっきり分かると良かったかな。映画を観た人は、公式サイトのcolumnとLove letterを読むと情報が補足されてより理解の助けになるだろう。
国王の伯爵に対する執心についても、もう少し分かると良かったなあ。伯爵の父に恩義があるから、とか、伯爵の才能が、とか一応理由は分かるんだけど、あまり入ってこないんだな。
そして、最期の回心。散々神を冒涜した男が、最期妻と母に見守られるなかで回心するって、あるのかなあ。私はないと思うな。後世の人のフィクションじゃなかろうか。まあこればっかりは本人に聞かないと分からないことだけど。
全体的に暗く、嫁入り前の娘が見ちゃいけない話ではあるが、そんなダーティーな中でも、ジョニー・デップの演技がキラキラ。だけど、パイレーツ・オブ・カリビアン2の方がかっこいいと思うよ。ていうかそっちを観たい。