ローマ人の物語を読んでいます。

先月あたりから、塩野七生の「ローマ人の物語」を読んでおります。現在4巻まで。
これ、父から借りてるのですが、父が「西洋文明を知るには、キリスト教とローマ史が必須だ」と言って薦めるのです。よく読む書評のブログでも、熱い感想が書いてあり、興味が出てきて読むことにしました。
1,2巻はローマ勃興から王政の終焉、共和制の始まりまで。それだけで500年である。この事実に私は心から驚いています。だって、今から500年前って、1507年だよ。室町時代だよ。
いまはポエニ戦争の後期まで読みました。1巻に3回くらいは、背中がぞくぞくする部分が出てきます。ちなみに4巻で泣けたのは下の部分です。

 三十九歳のカルタゴの武将は、六十二歳のローマの武将の遺体の前に、長いこと立ったままだった。遺体の指から抜き取った金の指輪には(中略)マルクス・クラウディウス・マルケルスと刻んである。逃げようが撃退しようが挑んでくるのをやめなかった、「イタリアの剣」に違いなかった。
 (中略)マルケルスの遺体は、簡素な武装に包まれ、執政官の真紅の長いマントの上に横たわっている。しばらくして、ハンニバルは部下たちに、ローマ様式にのっとった丁重な火葬でこの敵将を葬るように命じた。そして、遺灰は、黄金製の小箱に収め、マルケルスの息子の許に送りとどけるようにと言った。
【4巻:231〜232頁】

うおー!なんて誇り高き関係なんだ!塩野七生は徹底的に資料に当たって書いているとはいえ、小説家なので、こういう挿話もちょいちょい入れてくれて、ますます叙述に深みと人間味を与えている。

 ちなみに、一年間で世界中の歴史を教えなくてはならないという制約があるのはわかるが、日本で使われている高校生用の教科書によれば、私がこの間すべてを費やして書く内容は次の5行でしかない。 
 ―イタリア半島を統一した後、さらに海外進出をくわだてたローマは、地中海の制海権と商権をにぎっていたフェニキア人の殖民都市カルタゴとの死活の闘争を演じた。これを、ポエニ戦役という。カルタゴを滅ぼして西地中海の派遣を握ったローマは、東方では、マケドニアやギリシア諸都市を次々に征服し、さらにシリア王国を破って小アジアを支配下におさめた。こうして、地中海はローマの内海となった―
 これが、高校生ならば知らないと落第する、結果としての歴史である。これ以外の諸々は、プロセスであるがゆえに愉しみともなり考える材料も与えてくれる、大人のための歴史である。
【3巻:15〜16頁】

人の営みが二千年ちょっとで劇的に変わるとは思えない。中身は変わっても、根本の枠の部分は同じ構造をとることが多いのではないかと思っている。ゆえに、上で強調した部分、とくに「考える材料も与えてくれる」は私も強く同意する。
ちょっと前に受験対策で歴史を削るということが問題になりましたが、今の子は大人によって「結果としての歴史」すら知る権利と恩恵を奪い取られておるということになりますな。

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)


ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下) (新潮文庫)


ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上) (新潮文庫)


ローマ人の物語 (4) ― ハンニバル戦記(中) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (4) ― ハンニバル戦記(中) (新潮文庫)


父がこの本を貸してくれるとき、「きれいに読んでね。風呂の中でなんて絶対読まないでね」としきりにゆっていたなあ。