角の家の庭には、家族用の車と、子供用の自転車、そして子犬がいつもいた。
その犬は柴犬で、庭に放されて飼われていたものだから、通行人がオカシやら魚肉ソーセージやら与えて、その通りのちょっとしたアイドルになっていた。
だけど、その状態は犬にとってはあまり良くないことだったみたいで、飼い主が庭の奥のほうに引っ込めてしまい、そのかわいらしい姿は見られなくなった。
実家に戻ってきてから、私は角の家をたまに見ていたが、犬の姿を見たことがなかった。
今日通りかかったとき、たまたま庭に目を向けたら、犬がごろりとコンクリートに横たわって寝っころがっていた。
久しぶりに見た犬は大きくなっていた。
目頭が黒く汚れていて、毛並みがぼさぼさで、ときどきぴくりと脚を引きつらせて眠っていた。
ありていに言えば、歳をとったのだと思う。
角の家の坊ちゃんは、その犬を迎えたころはたしか小学生中学年くらいだった。
きっと今は成人しているのだろう。
昔よりはずっと庭先もひっそりしているから、もしかしたら、家を出ているかもしれない。
私は、坊ちゃんに比べれば見た目はあんまり変わってないけど、犬を見なくなってから私は学校を卒業し、東京に住んだ。
色んなことを聞き、色んなものを見、色んなことを体験したよ。