ゼロ戦は牛にひかれて

先日、宮崎駿の最新作『風立ちぬ』を観てきましたので。感想を書いておこう。


※ネタバレするかも。










はてなブックマークにあがってくるブログ記事を読む、ツイッターのタイムラインに流れてくる感想を読む。
絶賛する人とがっかり(というよりも非難くらい激しい感じ)する人半々のようだったので、観るのがとても楽しみだった。

で、観てきました。

感想。

うーーーーん。

素晴らしいです。

じゃあどういう点が?

それは・・・・うーーーーん。


まず感じたのは、穏やかな映画だったなあということ。
ストーリーを振り返ると、この映画は物語の構造としては起伏が穏やかだった。地震や恐慌、戦争など、時代は激動していたが、主人公は淡々と自分の打ち込むべき事に打ち込んでいてぶれていなかったからではないか。
物語の多くは主人公の冒険・成長物語であると思うけど、その点でも主人公がこの話を力強く動かすような大きな葛藤や事件などは描かれてない。むしろその、物語を動かすのは恋人の菜穂子の役割だったように思う。例えば、泉の前で泣きながら、菜穂子が二郎にずっと会いたかったと告白するシーン、菜穂子はサナトリウムから飛び出して二郎に会いに行くシーン、二郎の大きな仕事が終わった時、菜穂子は自らサナトリウムに戻っていくシーン。

正直、観終わった直後は、「恋愛の挿話はいらなくないか?」とも思った。
でも、そこを取っ払った「風立ちぬ」を想像すると、アンビエントミュージック(環境音楽)ならぬ、アンビエントムービー?(環境映画?そんなのあるのかな??)みたいになっちゃうなあとも思ってしまう。

そう、「環境」の描かれかたがすごかった。

風が吹き抜けて湖にさざ波が立つ。
雲が寄ってきて雨が降る。
地鳴りがして地面が波打ち家が破壊される。
木立の間に見える灰色の空から粉雪が舞い降りてくる。

宮崎監督とスタジオジブリの職人魂みたいなものを感じた。

あと、人物のしぐさ。主人公の二郎はあまりしゃべらないけど、設計図を引くとか煙草をふかすとか、もっと細かく、立ち姿や歩き方でその人がどんな人かわからせる。私が好きなのは、二郎が集中して作業をしているところ。集中力が高まりすぎてすべてイメージで考えがまとまっていくシーン(あの感じいいなあ、うらやましいなあ)。


もしも、

「一番印象に残ったシーンはどこですか?」

と聞かれたならば、私は、

「牛ができたばかりのテスト用飛行機を引っ張っていくところです。」

と答えるだろう。

まず、その画面がとてもきれいだと思った。薄暗い靄の中、笠と法被を着た人足の人たちが、数頭の牛に大きな大八車のようなものに載せた試作機を引かせている。

『列強と戦争しようかという国の内情の象徴

とも思うし、

『和魂洋才』

という言葉も浮かぶし、

『近代と前近代の転換点』

のようにとらえることもできそう。

でも、自分の中の感情をとらえようとすると、

『もう笠をかぶった人足の人たちはいないし、牛も飛行機をひかない』

と、過ぎた時代に対して(私はその時代を生きたこともないのに)感傷的な気持ちがあるようだ。

この映画にはいろんな階層の人たちが描かれている。帰ってこない親を街灯の下で待つおなかを空かせたきょうだい、どこかの避暑地で洋装してイスとテーブルについて洋食を食べる人々、離れのある大きなお屋敷で働く人たち、六畳一間の下宿屋に住む大学生。
食うや食わずで貧乏な人が居る一方で、少女がフランス語の詩をそらんじる。ドイツ語を流暢に操ったりする人たちもいる。結核は不治の病。

そんな時代。
破壊しつくされて、今となっては失われた世界。
そして、そんな時代を掘り起こして動く絵で表現した宮崎駿監督。
それを見て感傷的になる私。

うーーーーーむ。


宮崎駿監督は何を書きたかったのかな。

全くの推測ですけども、優先順位としては、物語を作ることは下の方だったのではないか。
それよりは、自分の描きたいと思ったものを全部描こうと思ったのではないか。
そして、持てる経験と技術の粋を尽くして、この記事で言う「環境」の部分をどこまで表現できるか試したかったのではないか。
と、思いました。
だから、歴史考証がめちゃくちゃだ!とか、堀辰雄の原作がめちゃめちゃだ!とかいう感想もありますけど、まあ多分そうだと思うんですけど、私はそこは、

『もうすべて監督の夢だから、すべてOKなんじゃないでしょうか、というかOKとするしかないんじゃないでしょうか』

と思います。


私は小さな子供のころから宮崎監督の作品を観てきましたから、ある意味監督の世界観を根気よく教わってきた教え子だと思うんですが、そんな宮崎監督先生の最晩年の作品かもしれない本作を観て、

『先生、本当にしたいことができてよかったですね!』

と、なんだかうれしいような気持にもなりました。


全体を通しての印象は、

静かな映画。
でも、心に残る。

そしていろいろ考えてしまった。
なんか深いぞ。

です。


うーーーーーん

なんかまとまらない感想だなー。