また流行りはじめた

 また新型コロナウイルス陽性者の数がここにきて増えてきている。数だけ見ていると不安しかないのだが、分母(全検査数)は同じ200人以上をたたき出していた4~5月と比べると1000人くらい増えている。それから、クラスタが発生している特定の業種にかかわる人たちに協力してもらって検査をしているというから、人数が増え、かつ陽性者数が増えるのも仕方ないのかな、とも思う。
 しかしながら、感染経路不明者は常に半数以上となっているので油断はできない。また、病院や施設などでの感染者の報告も増えてきているという。最新の状況はどうなっているのか知りたいと思っていたところに、ちょうどいいタイミングで、日本循環器学会のシンポジウムで、山中先生と西浦先生の対談を公開していたので視聴してみた。

本編 JCS2020 記念対談「新型コロナウイルスの流行における意思決定 〜未曾有の状況下でどう考え、どう判断すべきか〜」


 対談では「夜の街クラスタ」の人たちは、春ごろよりずっと協力的になっていること、新宿区が検査に関する良い施策を打っていることなどがあって、数字が増えていると言っていた。一方で、市中感染が増えていることも危惧しているとのこと。夜の街クラスタとは違う広がりも背後で起こっていて、注視しているそうだ。
 話は飛ぶが、私も疫学調査をしているので、保健師たちの苦労は想像できる。「公衆衛生は結局人をマスで考えるでしょ?血の通っていない学問よ」と時々批判があるのだが、実はちがっていて、データを収集する現場に行けば行くほど、一人一人に向き合わないと進められない学問なのである。なぜなら対象が人間なので、一人一人の事情を調整したうえで研究に協力してもらわないとデータが取れないのだ…。データだけもらって、統計ソフトを動かしている苦労の少ないポジションの人もいるけどね。だから、公衆衛生をやっている人は「あーこの人数字が好きなんだな」というタイプから現場で揉まれまくった結果人格者になったと思われるタイプまで、研究者のキャラクターの振れ幅が広い気がする。
 それは置いておいて、動画では他にも、抗体や免疫の作用について、現在のところの科学者たちの見立てなどが聞けて勉強になった。現在進行形でその特徴がわかりつつあるウィルスなのだということがその語りでよくわかった。
 しかしながら、冒頭、西浦先生が2月から6月までの自分の活動を振り返りながら、メールやSNSや手紙で脅迫を受けているということを話されたのはショックだった。物理的な被害を受けるに至っていないから、今後も勇気をもって有用と思われる情報は発信していきたいという旨をおっしゃっていたけど…。なんと徳の高い人なんだと泣けてきましたね。西浦先生は自分の研究が科学的批判に耐えられるようなものであるし、研究者コミュニティとつながってリアルタイムで評価を受けているから、自信をもっているし、責任をもって発信しているんだろう。だけどこんなことされるなんて割に合わなくないですか?クラスタ対策班や専門家会議は、科学的な知見を報告しただけなのに、自分の研究でいえること以上のことまで責任を求められる(今回の場合は経済的影響とか、政策の意思決定プロセスのこととか)というのは腑に落ちない思いでいっぱいだろうなあ。
 国民の代表者として選ばれている代議士からなる内閣は、報告されるエビデンスをもとに国民の幸福につながる決定を下していくことが仕事、行政は決定を施策に落とし込んで国民の税金を使って動かしていくのが仕事だからな。こういう話を聞くといつも、ちゃんと仕事をしてくれやと思う。そして、いや、そうか、専門家の陰に隠れて決定の責任をあいまいにするような代議士を選ぶ国民が馬鹿ということか、とも。毎回ブーメランを顔面に食らってうめいてしまう。